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SEJ 日本のエネルギーを考える会

137号 エネルギーの将来を考えましょう(3) -多くを期待できない再生可能エネルギー-


カテゴリ:  エネルギー » 再生可能エネルギー    2017-2-22 19:10   閲覧 (2170)


再生可能エネルギーで安定的に発電に使用できる水力、地熱、バイオマスなどがありますが、現状では、残念ながら我が国の資源の賦存量と立地の条件から今後の開発余地が限られています。

はじめに

 
136号では、再生可能エネルギーの中にも「安定的に発電に使用できる水力、地熱、バイオマスなどがありますが、残念ながら我が国の資源の賦存量と立地の条件から今後の開発余地が限られています。」とお伝えしました。自国の資源を有効利用でき安定電源として使えるものは大いに開発されることが望ましいのですが、本号ではこの点をもう少し深掘りして、なぜ開発余地が限られているのか、なぜ将来の電源として多くを期待できないのか、資源エネルギー庁の資料(図参照)を参考にしながら、その事情を考えてみましょう。本号を記述するにあたって、国立情報学研究所が公表しているエレクトリカル・ジャパンというサイトを参考に使用しました。
(参考 エレクトリカル・ジャパン)


1.水力発電



 エレクトリカル・ジャパンによると、日本には大小合わせて全部で2105ヶ所の水力発電所があり、その総発電出力は22,455.2MWです。このサイトには発電方式毎の一覧地図も掲載されていますが、日本全土がほぼ水力発電による供給域として示されています。これと共に、資源エネルギー庁が発表している包蔵水力の資料を比較しながら見てみると、未開発の水力発電所の地点数は多いのですが、殆どが流れ込み式の小型水力であることが分かります。


これらの包蔵水力を徹底的に利用したとしても、現在の約950億kwhが470kwh増える程度の事にしかなりません。日本で最初の一般供給用発電所は産業技術遺産にもなっている京都の蹴上水力発電所で、1891年(明治24年)11月に送電を開始しています。それ以来電力会社、地方自治体などが積極的に開発を進めてきましたので、今やダム式の大型水力発電所を経済的に新設できるような適地は極めて限られていると考えなくてはなりません。多くの開発努力を重ねてきた方々の努力の結果、容易に開発できる地点は既に飽和状態に近いということが言えます。



この様な現状を踏まえて、経産省ではRPS法を導入して、1,000kw以下の中小水力発電所の開発を後押ししようとしています。平成26年2月時点で5,600KWが導入済みで、26年度末までの申請予定は21万KW(新設は24円~34円/kwh ,既設導水管利用は14円~25円/kwh)と確実に増えていますが、風力や太陽光発電に比べて稼働率が高いとはいえ、比較にならないほど少ないのです。
(参考 経産省 水力発電のページ)

2.揚水発電


エレクトリカル・ジャパンでは、揚水発電所は水力発電所と分けて集計しています。揚水発電所の数は44ヶ所で、総発電容量は27,607.2MWです。このうち神奈川県企業庁が所有する250MWの城山発電所以外は全て電源開発(株)を含む電力会社の所有となっています。これは、揚水発電所がこれまで主に原子力発電所の夜間電力を使って揚水することを目的に原子力発電所とペアで開発されてきたという歴史によるものです。  
変動電源の調整用には絶大な効果を発揮する揚水発電ですが、高低差がとれる地形が必要ですが、それでも同様の制約を抱えており、変動電源の調整用として次々に増設してゆけるという状況にはありませんし、建設には膨大な費用と長期の工事が必要となりますので、到底すぐの役には立たないことがお分かりいただけるでしょう。

3.地熱発電



 同じく、エレクトリカル・ジャパンの地熱発電の地図を見てみましょう。全国で33箇所、521.5MWです。日本は火山国ですからもっと多くの地熱発電所があってもおかしくないようですが、これだけの規模に留まっています。
地熱発電所は、火山の近くということで、東北、九州に多くあるのですが、設置場所が国立・国定公園内になってしまう、あるいは、著名な温泉地の源泉に近いなどの理由により、新たな発電所の開発には反対が多い等の事情があるようです。源泉の湯量が減ったり、枯渇したりすれば温泉地の経営者にとっては死活問題ですし、観光収入を増やそうとしている政府の方針にも合わないと言えます。
また、技術的にも出力を維持する為に平均約3年毎に1本追加で井戸を掘り続ける必要がありますし、地熱を維持してゆくためにはそれほど大規模な発電所を作ることはできないという制限があります。初期投資費用に比べて出力が小さいことも相俟って、今後大幅な開発が進む事は無さそうです。このような理由から、経産省が試算した2030年における地熱発電の割合は1%程に留まっています。

5.バイオマス発電



 バイオマスとは「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」と定義されています。昔から日本では炭、薪を燃料として利用してきており決して革新的なエネルギー源ではありません。しかし、これまで再利用率が低かった食品廃棄物や食料用ではなかった農作物あるいは間伐材などを発電用燃料として利用することにより、カーボン・ニュートラルな電源として有効利用しようとする動きが活発化しています。今では、電力会社も大規模発電所の燃料として石炭と混焼するなどの方法で利用しています。エレクトリカル・ジャパンのデータでは、570ヶ所、24,106.7MWが開発されているということです。この570ヶ所の内訳を見てみると、100万KW以上の出力のある発電所は9ヶ所で、10位の徳山製造所発電所では出力は半分となります。使用する燃料の有る場所に発電設備を作りますので、自ずと発電容量は小さくなってしまうようです。
未利用の資源が有効利用されるという範囲内で使われている分には大変好ましい発電となりますが、これが良いということで集中的に開発が進むと、建設した発電所の活用が主目的となってしまい、カーボン・ニュートラルという本来の目的が忘れ去られ、利用できる資源を無理してかき集めるという事態が発生する恐れがあります。つまり、未利用資源を使うのではなく、本来食料として生産されたものが燃料として使われたり、森林が大規模に伐採されるような事が起こってしまう可能性があります。かつて、ガソリンの代替としてバイオ燃料がもてはやされた時にトウモロコシの価格が高騰したことを覚えておられる読者も多いと思います。また、カーボン・ニュートラルを主張するためには、燃料として使用された分に相当する植林が行われなくてはなりません。樹木が成長するには相当な期間が必要ですから、成長に見合う程度の開発に抑えるという知性が求められます。良いからといって、やみくもに開発を進めることができない大きな理由がここにあります。

6.そのほか開発中の非化石発電方式


 化石燃料に頼らない発電方式として、以上に述べたもの以外に波力・潮力発電もあります。将来の発電方式として開発を期待したいところですが、なかなか実用化の段階まで至らないようです。

7.むすび


以上安定電源として利用可能な再生可能エネルギーを見てきましたが、これらの設備については簡単に増設ができるような状況にないことがお分かりいただけたと思います。2012年の経産省の統計では水力が8.4%程ですが、これが2030年になっても10.5%前後と試算されており、これに地熱、バイオマスを加えても多くて14%弱しかなりません。無責任な一部マスコミや総理大臣経験者の主張を鵜呑みにせずに、政府が公表している資料に注目し、日本が生き残ってゆくために最適な電源構成がどのようなものであるのか、国民一人ひとりが考え続ける必要があるように思われます。

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