2050年に向けたエネルギー供給には「解決策のない課題（地球環境・原子力・再生可能エネルギーなど）」があり、どのように取り組むべきかを検討します。
前回シリーズ「エネルギーの将来を考えましょう」では、早急に原子力発電所を再稼働することによって、当面のエネルギー供給に不安がないように態勢を整え、2050年を目標にやれることをやるべきであるとの結論を出しました。これに続くシリーズとして、日本ではこれから「エネルギーのために何をなすべきか」を取り上げて議論致します。 最近の世論調査などによると、原子力発電所に対する否定的な考えを持っているのは主に高齢者で、日本の将来を担う若者たちは将来のエネルギー源として原子力は必要であるとの認識を持っていることが分かってきました。（右図 NHK報道）将来の日本のエネルギー事情を飛躍的に改善し、地球環境保護を含め安定した世界を作り上げることのできる若者たちに期待をしたいと思います。
日本は2030年までに温室効果ガスの26％削減を目標として、これに取り組んでいますが、これではその延長上にある2050年までにCO2排出量を80％減らす目標（地球温暖化対策法 2016年5月閣議決定）や2°C以下に温度上昇を抑える450シナリオ（WEO2016提案 IOJだより135号参照）には到底達しません。日本は既に省エネルギーが進んでいる国であり、節約だけでCO2排出量を減らすことは極めて困難です。「原子力を廃止して再生可能エネルギーに切り替えれば良い」と主張する人々がいますが、このためには年間70兆円もの費用を要することが判っており、国家予算の70%以上の費用を掛ける対策は非現実的であると言えます。それだけではありません。450シナリオを達成するためには産業構造や社会の仕組みまで変えなければならず、これは「Wicked Problem」（解決策のない課題）と言われるものとなります。近年、この目標達成の難しさが国際的に認識され始め、2050年までの数値目標を見直すとの動きもあります。しかし、困難であるからといって放置して良い問題ではないことは明らかです。
日本では、原油調達先が過剰に中東に偏っていますので、トランプ政権の打ち出した中東敵視政策や自国主義が益々進むと原油確保に大きく影響されてしまいます。更に、中国、インドや発展途上国のエネルギー需要の拡大に伴い、日本にとっては原油ばかりではなく全ての化石燃料の確保が深刻な問題となり得ます。欧米は中東への原油依存はほとんどないこともあり、日本だけが化石燃料を得られなくなるという懸念の材料となります。このような問題への対策として自給率を向上すれば、地球温暖化対策と共通の効果が得られますので積極的に推進すべきでしょう。
東日本大震災に伴い起こった大津波では約２万人の人が亡くなり、石油タンクなどの流失や火災が発生しましたが、幸い大都市圏ではありませんでした。今後、南海トラフなどの巨大地震による建物の倒壊に加え、大津波により大量の天然ガス、石油を貯蔵している火力発電所などのタンクが損壊すると大火災が発生し周辺地域に及び大災害になる恐れがあります。大都市近傍の火力発電所の再配置も考慮する必要があります。このように化石燃料を大量に貯蔵する現在の仕組みから、原子燃料や再生可能エネルギーなどの火災を起こしにくいエネルギー源に切り替えていくことで、危険性を減らす必要があります。
IOJだより136号、137号で確認したように、再生可能エネルギーでは2050年に要求される化石燃料の大幅削減、CO2 排出量の大幅削減は莫大な費用を要してとても現実的な解が見いだせません。a)特に、国土が狭く人口密度が高い日本では、陸上での太陽光発電だけでは需要全てを賄うのは不可能です。広大な経済水域を利用した洋上風力発電ならば可能性がありますが、技術的問題や漁業権、船舶航行などの課題をまず解決する必要があります。b)フランスでは現在でも電力は原子力と水力とでほぼ全量を賄っており、全エネルギーの50%を自給しているという実績があります。自然条件が厳しいというハンディはありますが、日本には技術もあり同様の状況を作り出すことは不可能ではありません。ｃ）原子力の導入拡大には国民の理解が必要ですが、マスコミや一部の有識者などによる主張にもとづく空気に流されて、１．で述べた解決しなくてはならない目標を忘れているのがネックになっています。国民が一体となって原子力を推進していこうとなれば、問題の大半は解決したようなものです。
