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SEJ 日本のエネルギーを考える会

152号 ノーベル賞作家カズオ・イシグロ氏の警鐘 −私たちが彼から学べること−


カテゴリ:  原子力政策    2018-1-15 20:40   閲覧 (1741)

カズオ・イシグロ氏は、1.文学は「科学の発見をどう利用するか」という判断の必要性を際立たせる使命を持つ、2.「何が真実であるか」への関心を持ち続けることが重要と指摘をしています。この2点について紹介します。

はじめに
昨年12月10日(日)に日本で生まれ英国で育ったカズオ・イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞しました。この授賞式に先立ってイシグロ氏はNHKの単独インタビューに応じ、彼の考えを率直に述べています。その意見の中には大変示唆に富んだものがありますので、ここで2点について紹介をしたいと思います。
1.文学は問う“発見をどう利用するか”
インタビュアー:ノーベル賞が授与される様々な分野の中でも、特に文学が果たし、人類が支持できるような貢献にはどのようなものがあると思いますか?

イシグロ氏:文学の重要な点は、それが人間の経験、感情を際立たせ、私たちが発見した知識によって何をするかを私たちが決める必要があることを際立たせていることにあります。そしてもちろん、それがノーベルの物語の核心です。
なぜなら、ほとんどすべての人が知っているように、ノーベル賞はアルフレッド・ノーベルによって創始されたからです。彼はダイナマイトを発明し、すぐに疑問が生まれました。ダイナマイトをどう使うべきか?何のために使うべきか?ダイナマイトはひどい破壊のために使うこともできるし、素晴らしい進歩のために使うこともできます。


だからノーベル賞の考えの中には、すぐにある共通の理解が生まれたのです。「知識を進化させ、科学的な発見などをすることは、もちろんとても重要だ。しかし、そこにはもう1つ、とても重要な側面がある。つまり、私達はそれらの発見をどう利用するか決めなければならない」という理解です。そうしたことは、感情や人間の体験に関して、異なる文化や人種間に一定の理解があって初めてできると私は思います。
つまり、変化を経験するというのはどんな感じか? 技術の素晴らしい進化を享受する側にいるというのはどんな感じか? 産業革命に移行し、情報世代に移行するというのはどんな感じか?ということです。私にとって文学の本質とは、人間の感情であり、願わくば私たちが作り出した障壁や壁を超えて、人間の感情を分かち合うことなのです。

まだまだ、とても良いことを言ってくれているのですが、とりあえずここで引用を終わることにしましょう。
イシグロ氏は文学者ですが、自然科学のもつ良い面、悪い面を正確に理解し、それを正しく利用するためには、我々自身がどの様に使うかを決めなくてはならないという核心を突いた考えをここで述べているのだと受け取り、感銘を受けました。
自然科学の発達に伴い、私たちが手にすることのできる技術はとてつもなく広範囲に及ぶようになり、人類の生活の利便性を高めて来ました。そして、イシグロ氏は文学がそのようにして得られた科学技術を使用する上での心構えなどを際立たせることができるのだと指摘していると思うのです。
日本が世界で最初の被ばく国になったことも福島原子力発電所の事故が起こってしまったことも、大変不幸なことでした。しかしながら、そのような経験を踏まえて、今後この巨大なエネルギーを人類に与えてくれる技術をどのように使うべきかを、現在の私たちが決めなくてはならないと、イシグロ氏は言っているのでしょう。
一度開発された技術は、良いものも悪いものも消し去ることは出来ません。というよりは、技術そのものに初めから良い物、悪い物という色は付いていません。
有用な物でも一旦何か悪いことが起きるとその利用を禁止してしまう、あるいは危ないからと取り上げてしまうという風潮が日本には蔓延しています。危ないものを次々と消していくと最後には何も残らないということに早く気付かなくてはなりません。文明の利器は殆どが使い方を誤まれば危ないものと言えるでしょう。火に始まって、青銅器、鉄器(刀、槍)、そして近代にはダイナマイト、自動車、航空機、ロケット。どれを取ってみても危険だと言える側面を持っています。本来危険であるものをなるべく安全に使いこなす、そして一部の独裁者が悪用しないように圧力をかけ続けるというように、人類の知恵を駆使してより良い未来を築いてゆくのが、今を生きる私たちに与えられた課題だと思います。

2.失われる“何が真実なのか”への関心(フェイクニュースにどう対峙するか)
インタビュアー:政治家が意図的に「私たち」や「あいつら」という言葉を使ったり、代替的事実や偽情報を使用したりすることについてどうお考えですか。(後略)
イシグロ氏:フェイクニュースというものは常にありました。20世紀は政治的プロパガンダの時代でした。政治にコントロールされたプロパガンダの時代でしたが、現代のフェイクニュースはそれとかなり違っているようで、私たちの側もうまく抵抗できるわけではありません。私達は社会として、政府によるプロパガンダや、ヒトラーやスターリンが展開したような政治的プロパガンダには非常に敏感になりましたし、抵抗する力もついています。
しかし、新たに登場したフェイクニュースに対しての抵抗力は低いのが現状です。1つ気をつけなくてはならないのは、何が真実で何が間違っているのかということに、私たちは関心をなくしているということです。



一面の真実を伝える力強い人物を否定するのをおそれているということだけではありません。事実かどうかはどうでもよくて、大事なのはその発言を聞いて引き起こされる感情だという考え方が蔓延しているように思います。例えば、昨日起こったとされる事件が、自分の怒り、あるいは何かに対する自分の感情を表現していると感じたら、実際にその事件があったことにしようということです。これは大変危険なことであり、また実に新しいことでもあります。作り事としての価値が、何かの議論にとって役立ちさえすれば、何かが実際に起こったのか、それとも起こっていないのかということは、人々はどうでもよいと思っているのです。
あなたがされているジャーナリズムという仕事はとても重要だと思います。また、20世紀半ばの第二次世界大戦の中ごろファシズムや共産主義が台頭し、まさに政府によるプロパガンダの時代だった当時のように、人々が真実とニュースの操作について社会全体として自覚を持ち、警戒することが重要ですし、最近のフェイクニュースのからくりを理解するために、私たちも精通する必要があると思います。
以上で引用を終わります。

フェイクニュースは日本だけではありません。トランプ大統領のSNSでの主張やCNNなどの一部のTVへの攻撃などはかなり一方的であると言えます。日本のマスコミなどより余程偏っているかもしれません。私たちIOJは福島原発事故以前の約15年前に発足し、日本の将来に大きな影響のあるエネルギー、環境などについていろいろな情報を発信してきました。私たちの発信した情報には原発の推進、エネルギーの自給率向上などが含まれており、反原発の人たちから見るとフェイクニュースといえるのかもしれません。
イシグロ氏の指摘する「人々が真実とニュースの操作について社会全体として自覚を持ち、警戒することが重要です」とは何なのでしょうか。真実とは何なのでしょうか、社会全体とは何なのでしょうか。簡単ではありません。



一部のマスコミが主張する「憲法を改正するのは悪」、「原子力を推進するのは危険」、「軍隊を持つのは侵略をするためであり容認すべきではない」というのも、ある限定された視点からだけ見れば本当なのかもしれません。
遠い将来についてはともかく目の前の問題だけを解決すればよいのであれば、「福島事故のような災害の再発を防ぐには原発をやめること」、「自衛隊の防衛力を最低限に抑え込むのは時の為政者が戦争に走るリスクを最小化すること」などの主張は一面では真実かもしれません。しかし社会全体としての是非はどうでしょうか。我々にとって今後5年、10年の話ではなく100年以上先の将来にわたり日本をより良くし、日本が誤った方向にいかないようにすることが重要なのでしょう。
反原発を煽るマスコミや脱原発の法律を制定しようとする一部の政党は、日本のエネルギーの将来をどうしようとするのでしょうか。彼らから、実現可能性の高い政策を聞いたことがありません。人気のある元首相、俳優や学者などの意見をもって良しとし、そのような議論を避けて終わりにしてしまっています。
このような考えは世代間で大きくことなることが世論踏査や選挙結果から明らかになってきました。
慶応義塾大学の遠藤典子教授の調査によると、原子力に反対しているのは高齢の男性だそうです。彼らにとっての将来は10年、20年先まで考えればよいのでしょう。しかし若者たちにとってはそうではなく、自分や子供たちの将来が明るく未来のある社会に発展していくことを期待しているでしょう。
若者たちは、マスコミに迎合し、脱原発を選挙対策として推進する政党を支持するのでしょうか。
イシグロ氏が言うように事実かどうかはどうでもよくて、大事なのはその発言を聞いて引き起こされる感情だという考え方が蔓延しています。真実を見極め、フェイクニュースのからくりを理解して、間違った風潮、意見に惑わされないよう、私たち自身が情報についての判断力を高める必要があるのでしょう。



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