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SEJ 日本のエネルギーを考える会

167号 朝日社説「原子力への逆風が国内外で強まっている」は本当か? ー世界の流れは原子力推進に向かっているー


カテゴリ:  エネルギー    2019-5-22 10:30   閲覧 (1857)


経団連会長は3月の定例記者会見で、「原子力を巡っては、好き・嫌いの感情的な議論ではなく、国や地球、人類の将来を含めもっと大きな捉え方をする必要がある。100年先、200年先を見据えれば、原子力は必要である。すべてのエネルギーを再生可能エネルギーで賄えて、国際競争力も維持できれば良いが、ハードルはかなり高い。

再生可能エネルギーの技術開発に失敗したらどうなるか。今後の電力をどうするかというグランドデザインを巡る議論を行い、多様なエネルギー源を確保できるよう、様々な手段を講じていくことが求められている。民間を含めて国として投資や研究開発を促進していく何らかのインセンティブを考える必要があろう。さもなければ、日本は立ち行かない。」と述べ報告書を纏めている。経団連「パリ協定に基づくわが国の長期成長戦略に関する提言」はこちらをクリック
これに対して、朝日新聞は社説で「原子力への逆風が国内外で強まっている現実を踏まえるべき、安全対策費の上昇で経済性は低下、高レベル放射性廃棄物の処分地の検討も依然進まない」などと目先の脱原発目線で批判した。事故後の安全対策費の上昇などは世界でも共通の課題ではあるが、世界は、地球温暖化対策、エネルギー供給の確保などの視点から原発の抱える問題を克服し乗り越えようとしている。脱原発を掲げる国は例外的なことを以下に示す。

主要地域、主要国の取り組み



将来のエネルギー予測についてIEAは持続可能な開発目標(Sustainable Development Goal;2050年頃までに温室効果ガスによる温度上昇1.5℃以下を目指す)を達成するため、主要地域、国の想定される発電割合を検討しWorld Energy Outlook 2018「以下WEO2018」に示している。図に2017年と2040年の比較を示す。原子力はどの地域でも主力であるが、風力、水力、太陽光などの再エネは地域の立地条件によって大きく異なっている。多くの国で原子力の継続ないしは拡大が見込まれており、「脱原発が世界の流れ」というシナリオはどこにも見えない。以下にこれらの地域の取り組みを紹介する。


EU


欧州の未来に低炭素な原子力は必要と強調

欧州原子力産業会議は2019年2月7日に声明書を公表し、住民に信頼性の高い適正な価格の電力を供給しつつ、持続可能で低炭素な未来を約束するには原子力が(1)環境面での持続可能性、(2)エネルギーの自給、(3)経済への貢献において利点があると指摘している。原子力発電所はほかのエネルギー部門と比べて廃棄物の排出量も少なく、原子力産業界は核燃料サイクルのバックエンド全体についても策を講じている。
発電に必要な土地の面積も、風力や太陽光といった低炭素電源と比べて、大幅に少なくて済む。
消費エネルギーの約半分を輸入で賄っていることや、加盟国の多くが単一の外部供給国(天然ガスをロシア)に依存していることに対しても、自給レベルを上げることのできる原子力の貢献が必要不可欠であるとしている。発電コストも原子力は燃料価格の急上昇から影響を受けにくく、経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)も「原子力は陸上風力発電とともに最もコスト面で効率性が高い、低炭素なエネルギー源である」としている。
欧州原子力産業会議の声明はこちらをクリック

∧胴



米国の原子力発電所は過去10年の間、8000億kWh(総発電量の19%)の年間総発電量を維持している。そして熱出力増強のための改修工事が行われ、増強合計は200万kWに至っている。また、燃料交換やメンテナンスに要する時間が短縮された結果、2018年の平均設備利用率も過去最高の92.6%を記録した。しかし、寿命延長のためにはコストを要することなどから、2025年までに12基の原子炉が閉鎖され、原子力の総発電量も17%低下する見通しである。失われた分は新たな天然ガス火力発電所や太陽光、風力発電所の出力で補われると予想されている。画像の原典EIA Annual Energy Outlook 2019はこちらをクリック

米国は化石燃料産出国であり、日本やフランスのように原子力や再エネを拡大して自給率を上げる必要性はない。また、エネルギー省(DOE)は2019年3月に国内で約30年ぶりの新設計画として唯一建設中のA.W.ボーグル原子力発電所3、4号機増設計画(PWR、各110万kW)に対し、連邦政府が追加で最大37億ドルの融資保証適用の決定を発表し、適用総額120億ドルとなる。全体の進捗率は75%となっている。


注目されるのは、2017年に誕生したトランプ共和党政権は「アメリカ第一主義」を掲げ、エネルギーコストを下げ、国内資源を最大限活用することで輸入原油への依存を軽減すべく、以下の政策課題の実現を目指していることである。
「アメリカファーストエネルギー計画」はこちらをクリック
●気候変動行動計画や水に関する規則など、これまでエネルギー開発の障害となってきた政策を廃止する
●クリーン・コール技術の活用と国内石炭産業の復活を図る、
●OPEC諸国や米国と利害が対立する諸国からのエネルギー依存から脱却する、
●環境保護局(EPA)の任務を、大気や水の保護といった本来の役割に戻す。
これまでの「エネルギーの自立」(Energy Independence)のみならず、米国経済のために低コストの国産エネルギーを提供することで、経済を成長させ、米国のエネルギー安全保障の脆弱性を最小限にする「エネルギーでの支配」という新たな概念を掲げ強調した。
先進的原子力技術の研究開発支援も

原子力の重要性を認識するDOEは2018年11月に、先進的な原子力技術の研究開発支援で新たに6州の11プロジェクトを対象に選定し、合計で1,800万ドルを拠出すると発表した。小型モジュール炉(SMR)開発などを含むこれらのプロジェクトは民間チームが主導するものの、連邦政府機関や官民の研究所、高等教育機関、その他の国内組織が米国の商業用原子力技術を進歩させる目的で参加する。民間の拠出分も含めると、これらの総合的な価値は2,500万ドルにのぼるとしている。今回の選定に際してDOEの長官は、「米国内でクリーン・エネルギーや経済関係の目標を達成する上で、原子力の果たす役割はますます重要になっている」と指摘しており、まさに官民一体の取り組み姿勢である。

スイス


2016年11月 国民投票で緑の党の脱原子力促進発議を否決

スイスは原子力に反対で原子力は終わると日本では理解している人が多いと思うが、大間違いであることを以下に示す。スイスの原子炉5基(PWR3基、BWR2基 総出力348.5万KW)は、2015年の総発電量の52%を占める水力に次ぐ電源として約35%を供給しており、同国は世界的に見ても最もクリーンな電源構成を持つ国の1つにあげられる。
チェルノブイリ事故、福島第一事故をめぐり原発反対の緑の党などとのせめぎあいが続き、2016年11月27日、緑の党による国民発議を受けて、45年の運転期間で原子炉を閉鎖するという脱原子力を促進する提案について国民投票を実施した。
その結果は、投票した国民の54.2%が急速な段階的廃止に反対と投票し、賛成票は45.8%に止まった。またスイス26州の内20州が反対した。国民投票が成立するためには二つの条件、すなわち投票者の過半数および州の過半数を必要とするが、票数、州の数のいずれでも反対が多数を占め、否決ということで決着した。これにより、スイスの原子力発電所は、安全規制当局の承認を条件として、発電所を所有する電気事業者の商業的な計画に従って運用することが可能となった。現時点では、2030〜2040年代まで、60年間運転を継続するものと見られている。その場合、その延長期間中に約3,200億kWhを発電することが期待され、ガス火力やフランス、ドイツからの電力輸入で代替した場合と比較して、少なくとも5,000万トンのCO2排出が回避できると想定されている。
「【スイス】国民投票で緑の党の脱原子力促進発議を否決」はこちらをクリック

➃ロシア、中国




ロシアにおける原子力発電設備容量は、米国、フランス、中国、日本に次いで世界第5位であり、2009年11月に閣議決定した連邦重点プログラムにより、総発電電力量に占める原子力発電の比率を2030年までに25〜30%、2050年までに45〜50%とする目標を設定した。図は持続可能な開発目標についてのWEO2018の評価を示しており、ロシアの取り組み様が見て取れる。再エネでは水力が原子力に匹敵する割合を占めている。また、高速増殖炉の原型炉であるBN-600が運転中である他、実証炉BN-800が2014年に初臨界を達成し、2016年に定格出力で運転を開始した。
中国の持続可能な開発目標では、WEO2018は2040年までの電源構成を図のように予測している。今後、発電電力量は大幅に増加するが、発電量増加の多くの部分を再エネと原子力が担い、化石燃料を削減している。広大な中国では、水力、風力、太陽光などの自然資源が豊かなことが分かる。原子力は2040年には米国、EUの合計に相当するまでに増強される。この目標の実現のために、原子力は最新鋭のAP1000に加えて第3 世代炉の導入・国産化に積極的である。国産の第3世代炉の華龍1号は2012年8月に国の技術審査に合格し、初号機となる福清5号機は間もなく運転を開始する予定となっている。

まとめ


以上述べてきた通り、「脱原発が世界の趨勢」と朝日などが主張するが、実態は全くその逆である。また、地球温暖化対策は必要であるが、化石燃料の枯渇や供給の停止などへの対応も必要であり、エネルギー安全保障の観点から原子力の重要性を多くの国が重視していることが確認された。
朝日新聞は公開討論をすべきと主張するが、原発の危険性、使用済み燃料の処分などの問題点を指摘する持論を展開するばかりで専門家の話を聞こうともしない脱原発の主張を展開する人たちとは、冷静で論理的な話し合いができるはずはない。
また、先進諸国の原子力の取り組みを見れば、エネルギー資源に恵まれない日本の政府は原子力の積極的取り組みを堂々と主張すべきではないかと思われる。福島原発事故の教訓を踏まえた既設原発の安全性強化や動力電源に頼らないAP1000のよう次世代原発の採用、あるいは工場生産を可能とする小型原発の開発など新たな取り組みが始まっている(後日紹介する)。今こそ、冷静な現状分析を実施し、政府主導で的確な判断をすべき時であろう。



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