2011年3月11日14時過ぎに物凄い揺れを感じたので会社事務所でＴＶのスイッチを入れると東北各地の凄まじい地震による揺れが映っていた。その後、ヘリコプターからの映像で津波の第一波が海岸に近づき、陸上を這うように進んでいく映像が届けられた。福島原発でも14mの津波で1号機から3号機の原子炉建屋や周辺施設が水没する画像が映し出された。
同日１９時過ぎ原子力緊急事態宣言が発令され21時頃から半径２km圏内から避難指示が出され、以降順次範囲が広がり翌日18時過ぎには20km圏内までになった。然し、いずれも半径で避難区域が指定され、風向き等の科学的根拠が一切考慮されなかった。その為20km範囲外で永らく計画的避難区域に指定された飯館村にも多くの方が避難された。
国は事故後に除染目標値を1ミリシーベルトと一律に定めた事は禍根を残す間違いであった。元ＮＵＭＯ理事の河田東海夫氏も次のように述べられている。
「日本社会が、「1ミリシーベルトの呪縛」に支配され、住民の避難解除における合理的判断を放棄してしまい、それが被災地の早期復興を阻んでしまったという 問題である。・・・（中略）・・・国の除染事業も、除染や避難は非常時の放射線防護策なのだという基本は 忘れ去られ、ひたすら被災者の不安と不満を解消するための事業へと変質してしまった。」このような事態を 招くような方針を決定した当時の民主党政権に憤りを覚えるのは筆者だけではないのである。
１．原子力規制委員会(以下規制委員会)と原子力規制庁(以下規制庁)
1.1 発足の経緯
「原子力安全・保安院」が経済産業省内にあって推進と規制を往復する人事交流が漫然と行われ、電力会社に天下りした退職者が規制行政に公然と干渉する等規制機関が監査機能の役割を果たしていないのも事故原因の一つと考えられ、2012年９月に規制委員会及び規制委員会の事務局を務める規制庁が発足した。この野田政権時に設置された規制委員会は環境省の外局で内閣から独立した三条委員会となり、人格が高潔で原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い見識を有する者と規定されている委員長と４名の委員で構成された。
当時の事情から原発推進者を除外するのは止むを得ないとしても、原発に携わった事が無い原子力関係者だけでは原発の安全・安定運転の規制は無理だったのではないか。客観的に原発の安全運転や緊急事態対策を技術的かつ論理的に議論できる人材を規制委員に充てるべきではなかったか。
1.2 地元説明
規制委員会はマスコミへの説明はしているが、規制庁職員や規制委員が自ら定めた規制について、地元住民に説明した事がないのではないかと記憶している。
米国にはＮＲＣという組織が原発の安全運転の為に必要な規制・助言・住民への説明を行っている。規制庁では年間数名の職員がＮＲＣで原子炉規制の専門的研修を受けているようであるが、原発立地住民への説明要領について聞いたことが無いし、規制庁そのものの教育プログラムにも無い。このままではいつまでも電気事業者を管理するいわば上から目線で規制するだけで、地元説明は規制庁職員の業務範囲外のままとなる。上から目線で電気事業者に細かい報告を求め、電気事業者の職員が報告書作成の為に多大の時間を費やし、現場を常時確認する時間を最小化させている今の規制庁の在り方は直ちに改めるべきである。
部下を指導する立場にある課長級職員に地元説明の要領を先駆者のＮＲＣから学ぶことを義務付けてはどうか。そこで学んだ事に日本の実情を重ね、地域住民や電気事業者及び原子炉メーカーと共に原発の安全・安定稼働を継続する仕組みこそ今求められているのではなかろうか。ＮＲＣで住民説明の仕方を学んだ規制庁職員が地元やマスコミに対しても分かり易い図等で懇切丁寧に何度も説明すると地元の意識も多少変化すると期待できるのではないか。(図 住民と協議するNRC)
２．事故対策と報道
その後原発に係った多くの方々が全交流電源喪失(以下ＳＢＯ)を発生させない方策或いは発生しても大事に至らない方策・・電源室扉水密化・非常用電源車の保持・ベント・防潮堤の強化等々・・の具体策を検討し、時間をかけて全ての原発で対策工事を実施し、原発の安全性は格段に向上した（図参照）。然し、新聞やＴＶなどの報道機関は記者が理解できる範囲内での報道と危険を煽る記事と番組ばかりで、対策工事内容の解説は防潮堤のかさ上げ等一部のみに留まった。今でもネット検索しても防潮堤のかさ上げ等目に見える対策しか表示されず、津波が来ても非常用電源設備や電源盤を守る決定的対策の扉の水密化が掲載されていないのが実情である。
反原発派は事故の防止対策等の安全性向上には全く興味もなく聞く耳を持たず、危険を煽るばかりで朝日新聞や東京新聞等の新聞、ＮＨＫやＴＢＳ等の放送メディアは防潮堤かさ上げ以外のＳＢＯ対策には触れようともしない態度は今も継続している。
あれだけの事故が発生し、多くの住民に避難を強いたのであるから、全ての原発が対策工事終了まで一時停止するのは必然であるが、対策工事の是非を審査する組織・・規制委員会と規制庁・・の電気事業者・メーカー・地元住民に対する「定めた規制の適正に関する説明」についての方法の知恵のなさには憤慨の連続で今に至っている。
以上の事から、原発事故から10年経ちそろそろ民主党政権が創った規制委員会も一度休止し、原発を確実かつ安全に稼働させるという考えに基づき、委員の人選をしてはどうか。イメージとしては、原発の安全機能や仕組みを熟知し且つ地元等で分かり易い説明を何度も経験した専門家２名と中立な立場の方と継続性の観点から現在の規制委員から1名の計4名に加え、委員長には原発安全に造詣がある新進気鋭の方を据えてはどうか。
３．政府の積極的関与
今最大のテーマである福島の処理水対策・・薄めて海上放出しかない・・について政府は風評被害対策・・金銭面での保障と魚の安全性PRを繰り返し実施・・を持参し、何度も何度も繰り返し説明すると共に総理も自ら地元に出向き説明すべきではなかろうか。
又カーボンニュートラルを掲げるなら現状から逃げずに原発の再稼働促進に留まらず、新増設を打ち出し、より安全性が高い小型原子炉の開発促進の為の予算を計上し、力強く後押しすべきである。これを具体化するために、現在策定中の第六次エネルギー基本計画に原発のリプレース・新設の必要性を明記すべきである。太陽光発電の課題の一つにＦＩＴがある。近年買取価格が下がっているものの、各家庭や工場などの消費者の負担増を強制するこの制度について、買取価格は市場原理に任せ、消費者の賦課金は原則廃止してはどうか。太陽光発電を買いたいとの企業や個人も多くおられることから自由意志で太陽光発電等の再生可能エネルギー発電のみを購入できる仕組みも構築してはどうか。一方で原発・火力のみを購入できる仕組みも必要である。勿論、各家庭や工場及び自治体等が自家消費の為の太陽光発電は拡充し普及を促進すべきで、資金面での支援を政府は強力に進める必要がある。(再エネを主体とする新電力は、最近は需要増をLNG火力で補っていたが、LNGが不足し発電単価の増加し一次的に高騰した。図参照）
4．まとめ
要は民主党政権時代の負の置き土産は一旦廃止し、今の目で見直し、必要なものは改変して出直すべきと考えるがいかがであろうか。