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SEJ 日本のエネルギーを考える会

SEJだより 第23号 ベンチャー企業による核融合炉開発競争ー2050年カーボンニュートラルに貢献するかー


カテゴリ:  原子力政策    2022-4-25 10:00   閲覧 (1995)
1. はじめに
SEJだより19号で、核融合発電炉が2050年までに実現する見通しがあるかについて論じ、現在の大型の核融合炉開発の路線では2050年の商用核融合炉実現はスケジュール的に非常に厳しいのではないかと述べた。しかし近年、核融合研究のメーンフレームである大型核融合炉開発に携わってきた一部の研究者たちがスピンアウトして、世界各国でいくつかの核融合ベンチャー企業を立ち上げ、ベンチャーキャピタルから資金を獲得して、それぞれがユニークなアイデアで、小型での核融合炉を目指す動きが活発化してきた。
建設費が1兆円にもなるような大型装置で、しかもその開発に非常に長い開発工程が必要となるような核融合発電炉に疑問を持つ人が少なからず存在する。しかし、そのような人たちがそれぞれユニークなアイデアをもった核融合炉を提案し、小型で、しかも短時間で核融合発電を実現しようとするグループが現れてきた。どのようなものか紹介する。
2.核融合発電の実現に向けての多様な方式

核融合発電を実現するための方式としては、図−1に示すように大別して磁気閉じ込め方式と爆縮型の慣性閉じ込め方式がある。


慣性閉じ込め方式は、DT燃料ペレット表面に多方面から大強度のレーザー光、あるいは重イオンビームを照射し、ペレット表面を急速に加熱して、表面の熱膨張により内部を急激の圧縮する、いわゆる爆縮により核融合反応を起こさせる方式で、いわゆるマイクロ水爆である。レーザー方式はローレンスリバモア研究所と日本の阪大レーザー核融合センターが精力的に研究を進めてきて、核融合反応条件を達成している。しかしこの方式はレーザーの発振効率が異常に低いために発電を想定した場合の経済性が課題となっている。実際、米国では、4千億円以上のコストをかけたローレンスリバモア研究所のNIF(National Ignition Facility)はQ値で0.7程度を達成した。ただNIFはエネルギー開発よりも軍事研究の色彩が強く、水爆のシミュレーション実験を多く行っているようだ。
この慣性閉じ込め方式を使用した民間企業での開発の一例として、日本の浜松ホトニクスのレーザー核融合がある。
磁気閉じ込め方式は、トカマク型をはじめ、ヘリカル型、ミラー型、マルチポール型、磁場反転型等、様々な方式が研究されたが、それぞれに長短があって、現在、核融合炉に最も近いのがトカマク方式と言われている。
民間企業での核融合開発でも大部分が磁場閉じ込め方式をベースにしている。トカマク方式で高温超電導コイルを使用したトカマク・ダブルダイバーター方式のコモン・ウエルス・システムズ社、球状トカマク方式を採用している英国のトカマク・エナージー社、ミラー型とマルチポール方式を組み合わせたロッキード・マーチン社がある。
さらに斬新なアイデアで二つの方式を組み合わせたハイブリッド方式がある。球状トカマクプラズマを急速に圧縮して核融合反応条件を達成するジェネラル・フュージョン社、磁場反転型で作成した2つのブラズマクラスターを中心部で衝突合体させて核融合反応を達成するトライ・アルファ・エナージー社、それにヘリオン・エナージー社がある。


以下、これらの民間会社の開発状況やその特徴について述べる。

3.いくつかのベンチャー型民間企業での開発の例
3.1磁気閉じ込め方式
(1)Tokamak Energy (トカマク・エナージー社(英)1),2)
球状トカマクはプラズマ閉じ込め性能は良好ながら“リンゴ”のようなプラズマ形状で中部に超電導コイルを設置することは困難とされ、発電炉には不向きとされてきた(トカマクはドーナツ形状のために中心部に絶対温度4K冷却の超電導コイルのスペースを確保できる)。英国カラム研究所で球状トカマクの研究をしていたアラン・サイクスとミカエル・グリアズネビッチらは、この球状トカマクに高温超電導コイル(希土類バリウム酸化銅:77K冷却)を採用することで、このスペースの問題を解決しようとしている。彼らはST25,その後にST40の高温超電導の球形トカマクを建設して実験を続け、小型で低コストの核融合炉の開発を進めている。尚、この開発には東大の小野靖教授、米国プリンストン大学プラズマ物理研究所研究員も参加している。
(2)Commonwealth Fusion Systems (コモンウエルス・フュージョン・システムズ(CFS)社(米) 3)
ボブ・マムガードらがMITの研究チームからスピンアウトして設立した核融合ベンチャーで、高温超電導コイルを使用した強磁場トカマク装置による小型で低コストのトカマク核融合炉を目指している。


CFF社が推進している炉型は、MITで長年にわたって研究されてきた、コンパクト強磁場トカマク(ALCATOR・C-MOD)をベースにして展開しているもので、実験装置としてSPARCを建設し、実験を進めている。このSPARCはALCATOR・C-MODと同じコンパクトトカマクで、Q>1(核融合反応出力が入力パワーを上回る)を目指して開発・実験中であり、Q>2も可能としている。尚、SPARCの科学的設計データは、Journal of Plasma Physics(核融合学会で最も権威あるジャーナルの一つ)に掲載され4)、多くの科学者に支持されたとしている。


このSPARCでの開発の結果を基にして、コンパクト核融合炉“ARC”の商品化の開発も進めている。このARC核融合炉はITER(Q>10)と同等のプラズマ性能を期待しており、また高温超電導コイルを使用してサイズはITERの1/10以下で実現する計画である。ARC核融合炉は2025年に商品化して売り出すとしている。
3.2 ハイブリッド方式
(1) General Fusion(ジェネラル・フュージョン(GF)社(カナダ) 5)


GF社はコスト競争力のある商業核融合炉を早期に開発することを目指して、2002年にミシェル・ラベルジュらが設立した。2006年、原理実証実験を完了し、大手ベンチャーキャピタルの支援を受けて実用化を目指している。 現在、バンクーバー郊外にある研究所で100人以上のスタッフが核融合システムの設計、シミュレーション、試作、テスト等の研究開発を行っている。


GF社が目指しているのは、磁気閉じ込めで作成したプラズマを電磁機械的に圧縮して核融合反応条件を達成するハイブリッド方式の一つ。先ず真空容器の上部で、球形トカマク磁場配位のプラズマを作成する。この球状トカマクプラズマを、マグネチックガンと呼ばれる開発済みのシステムを使って、液体リチウム渦からなる空洞に投入する。この空洞は回転する液体リチウムの遠心力で球殻形状となっておりプラズマを均一に圧縮できる。その後、周囲のピストンから液体リチウムを急激に押し出し、この液体リチウム壁がプラズマを圧縮する。ピストンの中のシリンダーが秒速100m程度で移動し、その時の衝撃波が液体リチウムを伝搬する。周囲にある多数のピストンから伝搬した衝撃が中心で重なるようにピストンをコントロールして、200マイクロ秒以下でプラズマを圧縮。プラズマは径方向に10分の1まで圧縮され、プラズマの中心密度は1026m-3、温度は10 keV、磁場は100 Tになるという。GF社には、フランスのエコール・ポリテクニク、ロシア科学アカデー、英国のカラム研究所、プリンストン大学、日本の九州大学も参加している。
(2)Helion Energy(ヘリオンエナジー(HE)社(米国)6)
HE社は2013年に設立されたワシントン州にある核融合企業で、磁気閉じ込めと慣性閉じ込めのハイブリッド技術を使い、また中性子発生量が少ない(中性子発生量は反応エネルギーの5%)、残りはアルファ粒子として発生) D-3He核融合反応で核融合発電を目指している。


プラズマ閉じ込め性能の良い磁場反転配置(FRC)のプラズマを作成する。FRCは磁力線が閉じており、ベータ値(プラズマ圧力と磁場の強さの比)が高いなどが特徴。左右の2か所で生成されたFRCプラズマがパルス磁場で高速に加速され、中央の圧縮室で高圧で単一のターゲットプラズマに衝突合体して核融合反応が発生する。
この核融合反応エネルギー(D-3Heの場合は主に高エネルギーアルファ粒子)は、アルファ粒子によるプラズマの熱膨張を利用して磁気圧縮コイルと加速コイルに電流を誘導することで、高エネルギーアルファ粒子を直接電圧に変換する直接エネルギー変換によってエネルギーを収集する。このため蒸気タービンや冷却塔などが不要となる。HE社はこれまでの開発研究により、約1億度のプラズマの達成、95%の効率で磁気エネルギーを回収することを実証、10テスラ以上の圧縮磁場を実現、完全な自給式ヘリウム3燃料サイクルの開発、等の成果を得ている。
HE社は、先ずNASA、DOE、DODから700万ドルの資金提供を受け、続いて2014年には民間投資家から150万ドルなどを得て、2021年後半の時点で、投資総額は7780万ドルに達する。更に2021年11月、5億ドルの資金を獲得し、さらに特定のマイルストーンに関連して17億ドルのコミットメントを得ている。


(2) TAE Technologies(TAEテクノロジーズ(米)7)


UCIのノーマン・ロストーカーが民間に転身して、磁場反転配位FRCプラズマ同士の衝突合体により核融合炉を目指して、19989年にTAEテクノロジーズ社を設立した。ロストーカーは、従来のDT核融合は14MeVの強力な中性子線により炉壁の損傷が激しすぎ、核融合点火の物理条件は容易であっても発電炉には適していないと考え、より高温を必要とする中性子が発生しない陽子−ボロン11の核融合反応を目標としている。この方式はDT反応と比べても30倍のエネルギーが必要とするが、金属容器や超電導マグネットを損傷せず、放射性廃棄物もほとんど出ない発電機を作ることができる。


FRCプラズマは核融合研究の歴史のなかで比較的早い時期から研究されてきたが、最近、同社のビーム駆動型のFRCプラズマ実験では、プラズマ閉じ込め性能は従来のFRCのスケーリングよりも1桁以上高いという成果を得ており、温度も5000万度を達成している。
TAE Technologiesはグーグルと緊密な協力をしており、開発資金も8億8000万ドル集めている。彼らは2025年までに核融合条件に到達し、2030年代には商用発電を行うことを目標にしている。
尚、2011年からTAE Technologiesの最高科学責任者を務めるのは、UCI(University of California Irvine )でロストーカーの教え子で、レーザー加速の第一人者である田島俊樹(元原研・関西研究所所長)氏。8)
3.3 慣性閉じ込め方式
(1)浜松ホトニクス/光産業創成大学院大学 9)
民間でレーザー慣性核融合をめざす浜松ホトニクス社は,阪大レーザー核融合研究センターで行われているレーザー核融合を含め、多くの核融合プラズマ計測などの分野に寄与してきた。同社は2010年、光産業創成大学院大学と共同で、大阪大の協力を得てトヨタ自動車ともにレーザー核融合開発に着手した。
同社は実用化時期は明確にしてないが,最終的に核融合実験炉CANDY(図-7)を目指している。10)
このCANDYの実現に向けて、様々な技術開発が行われており、これまで半導体励起固体レーザーを用いた高頻度で繰り返し可能なレーザードライバーを開発した。この強力半導体レーザーを2本使うことで、向かい合わせに燃料ペレットに照射し、さらに阪大で開発した高速点火方式といって別の極短パルスのレーザーを連続照射することで、燃料ペレットを爆縮点火させ、核融合反応を起こさせることを目指している。


これまでに、トヨタなどとの共同研究で、二千万度の高温を生成し、核融合反応条件の達成に近づきつつある。さらに実際の発電炉にするためには、一発の反応ではなく、連続的に核融合を起こし続ける必要がある。このためには燃料ペレットを次々に供給して連続的にレーザーを当てる技術の開発も進め、2022年3月4日、真空容器の中で、直径1ミリの燃料を100回連続して射出し、高精度でレーザーを命中させて連続爆縮点火を実証した。11)また最近になって、2021年に阪大レーザー核融合研究センターで研究を続けてきた松尾氏がレーザー核融合のベンチャー企業、EX-Fusion社を設立した12)。EX-Fusion社は、レーザー核融合商用炉の実現を目指しており、2022年1月にベンチャーキャピタルから1億円の資金を獲得してレーザー核融合の開発に弾みをつけている。


終わりに
核融合発電を目指した研究開発において、国レベルや国際協力で進められてきたオーソドックスな核融合プロジェクトでは、現在、DT燃焼プラズマの実証を目指した国際熱核融合実験装置ITERの建設で、核融合発電炉への道筋を明確に示しつつある。一方で、ITERのように建設費が1兆円にもなるような大型装置で、しかもその開発に非常に長い開発工程が必要となるような核融合発電炉に疑問を持つ人が少なからず存在する。


そのような人たちがそれぞれユニークなアイデアをもった核融合炉を提案し、小型で、しかも短時間で核融合発電を実現しようとするグループが現れてきた。彼らは核融合発電を目標とした会社を起業し、しかも開発予算として多いところでは1千億円を超える予算をベンチャーキャピタルから調達して、開発を進めている。確かにこれらの民間ベンチャー企業が進めている核融合炉開発は、従来の核融合プラズマのスケーリング則からすると無謀ともいえる側面もあるが、物理的工学的ブレークスルーが起こって一気に核融合発電炉への工程が短縮できるかもしれない。更に今後、多くの若者が核融合ベンチャーに挑戦することで核融合開発がより加速され、2050年カーボンニュートラルに向けての「夢の核融合発電炉」実現を大いに期待するものである。


参考文献
1)https://www.tokamakenergy.co.uk/
2)WINDRIDGE Melanie J, et al., J. Plasma Fusion Res. Vol.93, No.1 (2017)28-31
3) https://cfs.energy/
4)A.Creely, et al., Journal. of Plasma Physics,86-5, Sept. (2020),他に2編が掲載
5)https://generalfusion.com/
6)https://www.helionenergy.com/
7)https://tae.com/
8)Fusion Power - TAE Technologies | Fusion Power Clean Energy Company
9)森芳孝准教授、北川米喜特任教授らが取り組むレーザー核融合研究についてニュースリリースを行い、静岡新聞、中日新聞、中部経済新聞、日本経済新聞、日刊工業新聞で紹介されました。 | ニュース | 光産業創成大学院大学 (gpi.ac.jp)
/J. Plasma Fusion Res. Vol.93, No.1 (2017)18‐20
10)小型レーザー核融合実験炉 CANDY (gpi.ac.jp)
11)世界最高の科学力!史上初、日本がレーザー核融合に成功!1トンの水素から90テラワットを抽出可能 | おにぎりまとめ (eternalcollegest.com)
12)レーザー核融合商用炉を目指した日本初のフルスタック核融合スタートアップ「株式会社EX-Fusion」を設立|XFのプレスリリース (prtimes.jp)

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以上

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