Welcome Guest! ID PASS
SEJ 日本のエネルギーを考える会

SEJだより 第26号  脱炭素社会でのエネルギーキャリアーとしての水素の役割 (その二)  ー水素の輸送(水素は経済的に成立するか)ー 


カテゴリ:  エネルギー    2022-8-7 7:00   閲覧 (553)

<本サイトの「SEJだより第24号」“脱炭素社会におけるエネルギーキャリアーとしての水素の役割(その一)”で水素製造に関わる課題について報告したが、ここでは製造した水素の輸送と貯蔵の課題について考えてみる。尚、水素需要については(その三)で述べる予定。

2.水素の輸送と貯蔵

経産省の水素戦略によると1)、今後の脱炭素時代のカーボンフリー水素需要を賄うためには安価な海外産水素(製造コストが日本の概略半分といわれる)の輸入に依存せざるを得ないとしている。しかし海外の豊富な再エネ資源による電気分解水素、海外でのCCS付きの化石燃料水蒸気改質水素、等のクリーン水素を海外から国内の需要先まで配送するには、図―1に示すような膨大はインフラ整備が必要となる。海外の港での巨大な水素貯蔵所、大規模な水素運搬船、国内荷受けでの水素貯蔵基地、国内の水素輸送インフラ、需要先での水素ステーション、等々、多くの施設、機器をほとんどゼロから整備する必要があり、これらに対する巨額投資を誰がどう負担するのか、政治の決断が求められる。


2.1水素輸送・貯蔵時の減容方法


水素の体積当たり発熱量が12.8MJ/Nm3で、都市ガスの45MJ/Nm3に比べて1/3以下とかなり低い。このため水素を効率良く輸送するには、体積を減らし、エネルギー密度を高くすることが求められ、この水素減容手段として水素ガス自体の圧縮、液化、金属への吸着、あるいは水素を他の物質と化学結合させる、などがある。この水素輸送時の減容方法とその時の減容率や物性値等を表―1に示す。1),2)


<圧縮法>


このうち、圧縮法はもっとも一般的で、現在、20MPa程度で輸送しているが、燃料電池車(FCV)への注入圧は70 MPa程度なので、70 MPaでの輸送が出来れば、各地の水素ステーションで昇圧の必要がなくなりFCVにとっては大きなメリットが出てくる。ただしこれを可能にするためには水素輸送の現在の圧力上限値:35MPaの規制を改定する必要がある。


<液化法>
次に液化による水素減容での課題は、水素ガスの液化に多くのエネルギーを要すること、それに輸送や貯蔵におけるタンクの極めて高い断熱性能が求められることである。川崎重工によると、最近開発された液体水素運搬船の真空断熱性能は極めて高く、例えば、そのタンクに入れた100℃の熱湯は1か月経っても99℃を保っているという。さらに同社では数千kmにおよぶ長距離輸送で気化した水素を有効利用するための発電機等の開発も並行して進めている.
3)
<合金吸着法>


合金吸着法は輸送・貯蔵効率は高いが合金自体が重いため、重量当たりの水素貯蔵量が低く、陸上トラックによる輸送用としては不向きである。現在は潜水艦などの一部用途に限られている。
<他の物質と化学結合させる方法>
他の物質と化学的化合状態で輸送する方法としては水素をトルエンと反応させた有機ハイドライドのMCH(メチルシクロヘキサン)状態にしての輸送、あるいは窒素と水素を反応させてアンモニアとして輸送する方法等がある。水素をほかの物質と化学反応させた状態にすると、従来型のタンカーを利用することができ、経済的なメリットは大きくなる。

以上、水素輸送のための減容方法について述べてきたが、現在のところ、圧縮水素の輸送を除いて(液体水素については一部、JAXAが、川崎重工製の液化水素運搬船を種子島まで運行している)、ほとんどが実証試験の段階にあり、今後の開発に期待されている。


2.2 輸送・貯蔵コスト
輸送コストについては1)、水素運搬船、タンクローリー、水素ステーションなども含めると、現状ではいずれも130〜150円/Nm3前後と極めて高コストで、経済的には成立しない。経産省試算では2030年は約17円/Nm3、2050年にはさらにこの半分程度になる、と大幅なコストダウンを想定している。しかしその道筋はまだ明確に定まっているわけではなく、コストダウンに向けての技術開発に国としてどれだけの投資ができるのか、水素需要がどれだけ増大するのか、にかかっている。
3. 水素輸送のまとめ
以上、水素を海外で生産した場合の水素の経路、それに輸送の際に求められる水素の減容方法、コストなどについて見てきたが、水素の輸送や貯蔵に関する本格的なインフラはこれから整備しなければならない。これらの整備に必要な莫大な資金をどのように調達するのか、国主導による政策の遂行が求められる。
尚、水素の需要については(その三)に記載する。
参考文献
1)経済産業省;今後の水素政策の課題と対応の方向性 中間整理(案) 2021年3月22日
2)(一社)エンジニアリング協会、平成30 水素輸送・貯蔵研究会 報告書2019 年8月
3)川崎重工HP, 世界最大級の「11,200m³球形液化水素貯蔵タンク」の基本設計を完了 | プレスリリース | 川崎重工業株式会社 (khi.co.jp)

pdfはこちらから

トラックバック