SEJ　日本のエネルギーを考える会 - 「核燃料サイクル再処理工場を動かすな」への反論原子力国民会議より転載

「核燃料サイクル再処理工場を動かすな」への反論原子力国民会議より転載

カテゴリ: 百家争鳴 2017-2-23 9:10 閲覧 (840)

朝日新聞（2017 年1 月30 日）は「核燃料サイクル再処理工場を動かすな」という社説を掲載しました。全く短期的な見方で、我が国のエネルギー確保の本質を見誤っています。

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要約

「核燃料サイクル再処理工場を動かすな」への反論
朝日新聞（2017 年 1 月 30 日）は「核燃料サイクル再処理工場を動かすな」という社説を掲載しました。全く短期的な見方で、我が国のエネルギー確保の本質を見誤っています。
1 「高速炉の実用化が見通せない以上、危険なプルトニウムを増やすべきでなく、再処理工場も操業すべきでない。」という社説の主旨ですが、もともと高速炉の実用化は時間をかけて原型炉（もんじゅ）→実証炉→商業炉とステップを踏んで進める計画であり、今世紀半ばに
は商業化したいという目標は変わっていないのです。
2. 化石燃料の供給が先細り、エネルギー確保がますます難しくなる今世紀後半に備えて、自ら燃料を産み出せる高速炉の開発は必須のことですが、そのためには燃料であるプルトニウムを十分蓄積しておく必要があります。軽水炉を利用して今からその蓄積を始める必要がある
のです。そのためにあるのが「核燃料サイクル」です。
3. 石油文明の頂点を生きている現世代は子供や孫さらに続いていく世代のために確りとした石油後に備えたエネルギー供給手段の準備を進めて行く責任があります。「MOX 使用済燃料」はそのためのエネルギー備蓄手段なのです。

１．もんじゅの廃炉と核燃料サイクルは直接関係しない

社説：「高速炉の実用化が見通せない以上、危険なプルトニウムは増やすべきではない。青森県六ケ所村では使用済み燃料の再処理工場が建設中で、２０１８年度上期に稼働する予定だが、操業を中止すべきだ」

反論：もんじゅの後継となる実証炉の開発については政府と民間の知見を集めたプロジェクトチームが 1 年間をかけてロードマップを作成することになっています。高速炉の開発は決して諦められたわけではなく、フランスなどの協力を得て商業性を考慮した新しい実証炉建設の計画が作られることになっています。もんじゅに装荷されるプルトニウム量は年間 0.6 トンの予定でしたので、再処理工場から出てくる年間 8 トンのプルトニウムはもともと軽水炉の MOX 燃料に主に使用される予定でした。したがってもんじゅの需要がなくなってもその影響はごくわずかと言えます。
2040 年代後半から、2050～2060 年代にかけて、例えば 30 基（100 万 kW）の高速炉を導入していくことを考えた場合には、原子炉ごとに初装荷用として 8 トン、初期の取り換え用として 10 トン合計 18 トンのプルトニウムを準備していく必要があります。30 基で合計 540 トンのプルトニウムが必要になります。現在我が国が保有する 48 トンの 10 倍以上のプルトニウムが新たに必要となるのです。

2. 将来のウラン確保は約束されていない

社説：「政府計画の最大の誤算はウランが枯渇する心配は当分ないとわかり、価格も安定していることだ」

反論：時間軸を全く考えていない意見です。肝心なのは 2040 年代後半あるいはそれ以降のウラン手当の問題であり、その時点で容易に手に入ると考えるのは全く危険です。なぜならウラン鉱床は小さな規模のものが多く、ほとんどの鉱山は 10～20 年の操業で掘りつくされま。

また寡占化が進んでいて上位 8 企業で 86％の供給を占めています。そのうち民間企業はわずか 3 社なのです。我が国の原発 50 基の購入が突然消えてしまった現在のウラン市場で価格が低迷しているのは当然のことですが、2020 年には中国の原発が 50 基を越え、2020 年代後半には 100 基を越えるでしょう。2040 年には 200 基以上になることが予想されます。もし中国の国営企業が先回りして爆買いすれば日本の電力会社は手も足も出ないことになるでしょう。
たしかに地殻中にウランは散らばって存在しているのですが、それが経済的に回収できるとは限らず、我が国が入手できるとは限らないのです。中国は将来のことを真剣に心配して、アフリカの低品位鉱床を買い漁っています。日本はウラン技術者もいなくなり、海外の利権も先細りで危うい位置にいることを朝日新聞は認識しなければなりません。
海水からウランを回収すれば良いという人もいますが、海水中のウランは 10 億分の 3 という気が遠くなるような低い割合なのです。過去に原子力研究開発機構が行った回収実験ではおよそ 1kg のウランを回収することができましたが、100kg を回収する次の計画では 90 億円という予算が見積もられました。1kg当たりで考えるとおよそ1億円掛かる計算になります。
実用化のために 1000 トンのウラン回収を試みるとすればやはり気が遠くなるような資金が必要となるでしょう。このように実際には当てにできない資源なのです。

3. 軽水炉使用済燃料から原爆は作れない

社説：「我が国は計算上、原爆 6 千発分に当たる約 48 トンのプルトニウムを持っている」、「消費が進まないまま再処理工場を動かせば、日本の核不拡散や核廃絶への姿勢まで疑われかねない」

反論：本当に我が国が持つ軽水炉からのプルトニウムで原爆を作れるのでしょうか？歴史的に見ても、世界で軽水炉の使用済燃料から回収されたプルトニウムで原爆を作った人は誰もいません。回収されたプルトニウムにはいろいろな同位元素が含まれており、その発熱効果が原因でミサイル搭載可能な実用的な核弾頭はできません。クリントン大統領時代に米日韓に EUが加わって北朝鮮に軽水炉 2 基を建設してあげる KEDO プロジェクトが存在していたのがその良い証拠です。かの悪名高い北朝鮮に軽水炉を建ててあげて、手持ちの黒鉛炉を廃止させるのが目的でした。米国も EU も軽水炉で爆弾を作れないことを良く知っていたからでしょう。
北朝鮮のみならずイスラエルも、インドもプルトニウムを特別に作る原子炉を建てているのです。まして六ケ所再処理工場ではウランとプルトニウムを混ぜた混合体の形でしか製品を作りません。またこの混合体から作られた MOX 燃料を軽水炉に装荷して、燃やした後の「MOX 使用済燃料」の形で貯蔵（備蓄）するのですから、海外の誰も文句を付けられないことでしょう。

4. 再生可能エネルギーとシェール資源の限度

社説：「核燃料サイクルの抜本見直しは簡単ではない。国のエネルギー政策に直結し、関連施設がある各地の地域づくりにも影響する。青森県は再処理を条件に使用済み燃料を受け入れてきた。それでも今、立ち止まらなければ、国民全体が大きなつけを背負うことになりかねない。もんじゅ廃炉という、部分的な手直しですませてはならない」

反論：高速炉の本格的導入を試みる 2040 年～2050 年代の世界のエネルギー状況はどうなっているでしょうか？一番の問題は既存の在来型油田からの生産が 2040 年には 1/3 まで減ってしまうことです。
国際エネルギー機関（IEA）が世界の油田のデータを元に解析したものですから、確実な見通しであるわけです。それを補うのはこれから開発される油田、これから発見される油田、そしてシェール・オイルなどの非在来型資源ですが、いずれも先の見通しは明るくありません。
これから開発・発見される油田の大半は深い海の底からさらに深く掘り下げる油田や北極海の油田などが考えられるのですが、油田の規模はますます小さくなり、油田の枯渇は早くなり、そして回収コストは高くなります。シェール・オイルは非在来型資源で生産はほぼ米国だけに限られています。
固い岩石に人工的に割れ目を作って回収する資源ですから、どうしても多くの生産量は望めず。IEA も最近のレポートで今後の増産期待値は世界原油生産量の 3％程度と見ています。

再生可能エネルギーの主力は太陽光と風力です。IEA の最新レポート「世界エネルギー見通し 2016」では世界主要国・地域の 2040 年見通しをコンピュータープログラムで予測しています。特に太陽光と風力の変動電源については詳細な分析を試みています。それによると、太陽光・風力の変動電源はその割合が 25％近くになると蓄電やデマンドレスポンス（ピーク時に対価を払って使用を控えてもらう）などの技術を駆使しても、発電を止める必要が出てくることを述べています。
また太陽光・風力は既存の安定電源（火力・原子力）を代替することはできず、結果として日本や EU では平均需要量（kW）の 3.4 倍の発電設備（kW）を抱えることを示しています（図を参照）。

しかしこれはコンピューターによる計算上だけのことであり、実際には需要の 3.4 倍というような生産設備を持つ業界はそのままでは生きて行けません。消費者の負担が大きくなりすぎるからです。
したがって誰かが退役する必要が出てくるのですが、そうなると安定供給の面で役に立たない太陽光・風力が最初に退役することになるでしょう。つまり太陽光・風力には導入量に限度があるのです。
現にスペイン、ドイツなどの先行国では太陽光・風力の発電量が 20％に近づいたところで建設ペースが極端に低下し、スペインではほぼゼロとなっています。イタリアでは太陽光の割合が 15％に近づいたところで新設がほとんど見られなくなっています。
注）左から風力が平均需要の 0.35 倍、太陽光 1.0 倍、安定供給可能な再エネ（水力、バイオ、地熱）0.85 倍、原子力＋炭酸ガス回収貯留（ccs）付き火力 0.45 倍、炭酸ガス回収貯留なしの火力 0.75 倍。全てを足すと 3.4 となり、需要の 3 倍以上の設備を持つことになります。

まとめ

現在私たちは石油文明の頂点を生きていると言えます。在来型油田からの生産量は 2005 年からほぼ高原状態を続けていて、いつ下り始めてもおかしくない状態にあります。シェール・オイルなどの非在来型資源の限度も見えています。再生可能エネルギーを救世主として期待することもできません。つまり宴は終わりに近づいているのです。そのような厳しい将来が予想されるのにイソップ物語の夏のキリギリスのような生活を続けて、将来の対策を考えないことで果たして良いのでしょうか？

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「核燃料サイクル 再処理工場を動かすな」への反論 原子力国民会議より転載

要 約

１． もんじゅの廃炉と核燃料サイクルは直接関係しない

社説：「高速炉の実用化が見通せない以上、危険なプルトニウムは増やすべきではない。青森 県六ケ所村では使用済み燃料の再処理工場が建設中で、２０１８年度上期に稼働する予定だが、 操業を中止すべきだ」