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SEJ 日本のエネルギーを考える会

156号 福島事故の教訓を活かした安全性向上ー理解は難しいですね


カテゴリ:  原子力安全    2018-5-15 22:20   閲覧 (2404)

原子力発電所は本当に安全になったのか理解してもらえない。危険を強調するのは簡単ですが、安全を理解してもらうのは大変難しい。どのように福島事故の教訓を活かし安全性向上をはかっているのか安全対策を解説してみました。


はじめに
福島第一発電所事故の教訓から原子力規制委員会は各種法律や審査基準安全性向上の継続的取り組みを監視するしくみなどを抜本的に改定し、電力会社はこれに沿って設備の変更や体制を立て直した。その後、運転再開に向けて安全審査などの手続きが開始され、一部PWRでは運転を再開している。
電力会社やメーカは安全な原子力の再出発を目指し真摯に取り組んできた結果、原子力発電所の安全レベルは格段にあがり、再び大きな事故を繰り返す可能性は大きく低下していると言えよう。
しかし、原子力発電所は本当に安全になったのか、どのように安全になったのかが伝わってこない。それは専門家でもなかなか理解するのが難しい改革が為されているため、これを理解できない一部の政党やマスコミは、原子力発電のリスクのみを強調するという偏った伝え方をしているからなのであろう。


そこで、今号では、これまでに実施された安全対策について改めて解説し安全性向上の継続的取り組みを監視するしくみ、多くの人びとが理解できるように紹介していくこととした。
1.何が悪かったのか?
安全と言われた軽水炉も1979年のスリーマイル島の炉心溶融事故やその他世界の原子力発電所での事故・トラブルの教訓を反映して改善してきた。しかし、1999年にはフランスの原発で大洪水による浸水、2004年のスマトラ沖の大津波でインドのマドラス原発の非常用の海水ポンプが水没する等の事態を経験したことから、日本でもこれら事象への対策を検討してきた。
その結果、津波で溢水すると全電源喪失事故に進展するうえ、重大事故への拡大も懸念されることが判り、
2006年には原子力安全・保安院は津波に対する余裕が少ない原子力発電所に対して具体的な物理的対応を取るよう口頭で指示した。しかし、福島第一では具体的対策を検討中に大事故が起こってしまった。
本格的な対策には時間を要しても、ことの重要性を考えて、建物への浸水防止扉や緊急時対策用の電源の強化などを指示の後速やかに行っていれば、事故を軽減できたであろうと考えると、極めて残念なことであった。
2.福島第一では大事故になったが、被害が最小の発電所もあった
福島第一発電所では、大地震の直後に原子炉は自動停止し、外部電源喪失はしたが非常用電源が起動し問題なく原子炉を守るための注水を開始することも出来た。しかし、約50分後に大津波が襲来すると、非常用の電源まで失われ、原子炉への注水が継続できず、燃料温度が上昇した結果溶融し、水素も発生した。格納容器の冷却ができないため圧力が上がり破損し、また漏洩した水素が原子炉建屋内で爆発した。この結果、周辺へ放射性物質が放散された。
その主要な原因は、津波に対する防護が脆弱で、すべての電源を失った場合の電源復旧や原子炉への継続的注水、冷却の手段が用意されていなかったこと、また、炉心損傷後の水素爆発や放射性物質の放出を防ぐ手段が用意されていなかったことなどであった。
しかし、同じ大津波に襲われた福島第一の5、6号炉、福島第二、女川発電所や東海第二発電所などでも、津波の被害はうけたものの炉心の損傷はなく安全は確保された。なぜならば:
 女川原子力発電所ではあらかじめ津波対策や事故訓練を行っていた
 福島第一5,6号機では、高台に非常用発電機があり一部の非常用電源が使えた
 福島第二では、いくつかの電源が生き残った
 東海第二では、津波対策を実施中で非常用電源が生き残るなどして大きな被害を免れた
これらの発電所では、運転員の事故対応の活動と相まって事故の被害を小さくしていたのであった。この教訓から、新基準においても津波対策のみならず、冷却水注入用の設備が使えなくなった時のために用意してきた代替の消防ポンプや電源車などの重大事故対策用機器の重要性が認識され、新しい安全規制に反映されることになった。

3.教訓を踏まえた安全規制の導入

福島事故の発端は、原子力安全・保安院からの津波対策の口頭指示を東京電力が軽視し対策が遅れたことにあり、マスコミからは官民の癒着があるのではないかといわれた。このような指摘を踏まえて、原子力規制委員会はホームページを活用して、審査状況、審査資料、事業者とのやりとりなど、すべてを国民にオープンにしている。
(規制員会のHPの目次(図)の各項目をクリックすると詳細が分かるようになっている。ここではリンクはついていません)









4.再稼働した原子力発電所の安全性は飛躍的に向上している

今回の事故の教訓を踏まえると、津波のような自然事象に対する考慮が十分でなかったこと、原子炉の安全設備が的確に設計され炉心損傷などの重大事故が起こらないように確認してきたにも拘わらず、炉心損傷が起きたとき、あるいは起きる恐れのある事態への対策が十分でなかったことにある。

























そのため以下のような点を考慮して、規制基準を強化し対策をとることとしている(図参照)。かってTMI事故の教訓を踏まえて全面的に安全規制の改定を行ったが、それを大幅に上回るものであり、これ等の対策が完了すれば安全裕度はこれまでよりも大幅に向上するであろう。
主な改定

�自然事象等
津波、地震のほか竜巻、周辺の大火災、土砂崩れなどへの対策を施すこと























�電源系の強化
非常用電源が共倒れにならないような構造にすること、これらが使えないとした場合にもバックアップできる電源車などを用意すること、外部電源が地震で使えなくなることを考慮した耐震性の強化
























�炉心冷却のバックアップ
地震や津波などの共通要因によって炉心が損傷しないように冷却できる機器の整備や手順・体制の強化






















�格納容器の健全性の確保
炉心の冷却に失敗するなどして格納容器が破損することがないよう機器を整備






















�ソフト面の対策
重大事故に対する事故訓練、要員の確保、複数号機の同時事故への対応、可搬型重機の運搬、アクセスルートなどの確保























�原子炉施設への大規模な損壊への対応主な改定は
大規模自然災害、意図的な大型航空機の衝突、その他テロリズムが発生した場合の対応手順、体制、機材の整備























上記のPWRに関する対策に関する原子力規制員会の審査書(抜粋)はこちらから

安全性向上の継続的取り組みを監視するしくみ
以上の規制強化に加えて、安全性向上の継続的取り組みを監視するしくみが昨年7月からはじまった。また、電気事業者側からの活動として、川内1・2号機と高浜3号機の安全性向上のための自主的な取り組みが規制委員会に提出されたが、これらから電気事業者の積極的な安全への取り組みを読み取ることができる。

まとめ
IOJの企画委員会では、あらためて福島事故の教訓がどのように反映されているかを勉強してきたが、国の安全規制の取り組みと電力会社が対応しようとする姿勢が良く理解できる状況となっている。
実施されつつある安全対策は、これまでの安全規制を大きく超える革新的なものである。少し行き過ぎがあるとの批判も一部にあるが、まず国民の信頼回復が一番であり、「原子力なしでは日本の将来はない」という私たちの主張が実現するように、政府も事業者も強い意志を示していると言えるであろう。一部の政党、マスコミや評論家は、国の繁栄よりも選挙対策としてあるいは自らの利益を念頭に置きながら、安全を理由として原発反対の主張をしている。安全を論ずるのならまず規制委員会のホームページを熟読してからにして欲しい。また、原子力規制委員会も一般への説明が不足しているのではないか。
電力会社は二度と福島事故のような事故を起こしてはならないが、国民の側も、安全を司る原子力規制委員会や電力会社が懸命に原子力の信頼を取り戻し安定したエネルギー供給を目指していることを忘れないでほしいものである。

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